推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

そのかりんとうは何用だ

お疲れ様です。

 

きたる3回目のワクチン接種の為に、今日は仕事帰りにお買い物に行きました。

 

解熱剤などは以前準備していたので、今回新しく買う必要はありません。

 

1回目も2回目も、ほとんど何もなかったので、3回目も一緒かなと思いつつ、

3回目だけ熱が出ました、という話も聞きますので、準備はしておくべき……よね?

 

 

ポカリ的なもの、ゼリーなどの食べやすいものを探して食料品売り場に足を踏み入れました。

 

 

 

おかしいな。

 

気が付いたら、かりんとうを3袋も買っていました。

熱でふせっているときに食べることを想定して買うものじゃないな。

 

 

おかしいな。

 

気が付いたら、今リアルタイムで口の中にかりんとうがあります。

もう、今食べたかっただけやんな。

 

 

とても美味しいです。

 

幸せです。

 

 

 

父と私の桜尾通り商店街(角川文庫)

著者:今村夏子 出版社:KADOKAWA

ISBNコード:9784041118962

父のパン屋は人気だったことがない。母が騒動を起こして出て行ってから、焼いたパンの半分以上は捨てられる運命にある。

残りの材料を使い切ったら店をたたもうと決めたある日、見知らぬ客が店にやってきた。(裏表紙あらすじより)

 

作者は2019年芥川龍之介賞を受賞された今村夏子さんです。

初めて拝読します。

あらすじから既に「あ、暗いだろうな」とは思ったのですが、いざ読み始め、そして読み終えた今、思っていた暗さと違ったな……と、初めましての魅力をぐぐっと噛み締めております。

 

全7篇から成る短篇集です。以下、少し内容に触れます。

 

『白いセーター』

『ルルちゃん』

『ひょうたんの精』

『せとのママの誕生日』

『冬の夜』

モグラハウスの扉』

『父と私の桜尾通り商店街』

 

収録作品の一つ目『白いセーター』。

主人公「わたし」とフィアンセの伸樹さん。物静かな彼女らが、クリスマスイブの夜は外食にしよう、と話している場面から始まります。

 

読み始めてすぐに、

 

わ、これは、、初めましてのやつやな……

 

と身構えました。

私の読書履歴をさかのぼりますと、「○○ミステリー」やら「○○事件」やらばかりで偏っているものですから、「初めましての感覚」はよくあります。

が、先述した通り『暗さ』の種類が想像していたものと違っていて、わ……となりました。

 

語り口や情景が静かで落ち着いていて、どこかほの暗い、というのは今までも読んだことがあったのですが、なんというか、会話が、言葉をその場に落とすような、まさに「ぽつりと」という雰囲気で連なっていて、

静かな人たちのリアル日常のテンションがそこにありました。

声に感情を大きく乗せない人たちのやり取りでした。

 

そのテンションのまま、じわじわと登場人物の幸福感と、不安感が、本当にじわじわときます。

楽しみに思う事と、嫌な出来事が静かにやってきて、それはたぶん

 

3:7

 

とか

 

2:8

 

とかの割合で主人公たちの元にやってくる。

この時の不安感は、主人公が感じる、というよりは私が感じるものだと思います。

 

 

何かを思って、行動に移す主人公たちが、衝動的に見えて、私はものすごく不安を覚える。

 

大丈夫か。

 

その勢いで、大丈夫か。

 

私はあんまり大胆な行動をするタイプじゃないので、余計に怖い。

エネルギッシュな人は、眩しくて、怖い。

気推されてしまいそうで、怖い。

その前向きな気持ちが、何かの拍子にぺちゃんこになってしまうんじゃないかと想像して、怖い。

 

衝動的に見えてしまったところも、もしかしたら彼女たちは色々考えて考えた末の行動かもしれないし、

その場では突発的な動きだったとしても、それまでの年月考え続けたことがあったのかもしれない。

 

彼女たちの選択にドキッとします。

取り返しのつかないことが起きるんじゃないか、いや、もう起きているのか、もう済んでしまっているのか、これからどうするのか。

 

ほんのちょっとした出来事や、小さな音を立てて起きていた事が、どこか不穏な影を残す。

 

だというのに、何故こんなにも表紙は明るくて飾り気の少ない可愛さをしているんだ。

 

 

 

ファンタジー色の強いお話もあって、でもそれも語り口は静かで。

じんわりずっしり心に来る本をお探しの方、オススメです。

 

 

本当にそれで大丈夫か、と主人公たちを心配してしまう私と

 

立ち止まらずに行動に移してしまう主人公たち

 

 

どっちがいいんだろう、と考えたりもしましたが、物事には良し悪しというものがあってな……と脳内でお返事があります。

 

みっこ先生がひた走る『モグラハウスの扉』、表題作の『父と私の桜尾通り商店街』が好きでした。

 

行かなきゃ! って何かを思って走り出すことに躊躇いなど忘れ去る彼女たちの、危ういまでの真っすぐさが、不安を覚えつつも、好きだなと思ってしまう。

 

 

ぜひ、お手に取ってみてください。

 

 

 

巻末に作者さんへのインタビューの様子が少し載っていて、

 

ハッピーエンドにしようと思って書き始めるのに、なぜか最後悲しくなることが多い

 

という話があって、そっかぁ……………ってなる。

 

 

 

病人に必要な食品を買いに行って、

うっかり好きなもの、しかも かりんとう という重ため油菓子を買って、

うっかりその日の夜のうちに1つ食してしまって、

うめぇ!!! 幸せ!!!

 

って一日を終えようとしている人間には出せない雰囲気、出せない魅力の作品。

 

 

体調崩してもいいように、なんて思ってなくて

お休み楽しむぜひゃっほう! ってはしゃいでる人間のお茶請けなのが丸わかりですね。

 

かりんとうはね、美味しいから。

かりんとうに罪は無いから。

 

 

今日も元気。

おやすみなさいませ。