推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

ハッピー王国は心の中に/『羊と鋼の森』

お疲れ様です。

 

久しぶりにハッピーターンを食べた。

職場の隣の席の人がくださった。

 

美味しい。

 

ついている粉は『ハッピーパウダー』という。

 

すごくハッピーな気分になれそう。

 

 

 

……ヤバい粉ではありません。

 

もしヤバい粉だったとしたら、仕事中に隣の席の人にそれを平然と渡してくる職場の人がヤバすぎるじゃないか。

 

 

 

ハッピーターンの個包装には、ハッピー王国やターン王子の豆知識が書かれていて、それを久しぶりに目にすることになって、面白かった。

ついでにハッピーターンの公式サイトも検索してみて、そうしたら知らないことしか書いていなくて、めちゃくちゃ面白かった。

 

ハッピー王国|ハッピーターンスペシャルサイト (happyturn.com)

 

まさかターン王子の本名が『プリンス・ハッピー・ターン・パウダリッチ』だったなんて。

まさか彼に決め台詞があったなんて。

 

私がいただいたハッピーターンの包みに書かれていたこと、とても気になった。

 

そこには、ターン王子はマントを7着持っていて、毎日違うものを身に付けている、ということが書かれていた。

 

 

一緒。

 

私たちと、一緒。

 

 

1週間という時間の単位を、ハッピー王国でも採用しているということだ。

どこか遠くの国だと思っていたけれど、これを知った瞬間に一気に親近感がわいてしまう。

 

もしかすると、曜日という概念もあるかもしれない。

 

地図に載っていないだけで、この世界のどこかにハッピー王国はあるのかもしれない。

 

夢が広がるね。

 

 

 

全然関係ない今日のオススメ。

 

羊と鋼の森(文春文庫)

著者:宮下奈都 出版社:文藝春秋

ISBNコード:9784167910105

高校生の時、偶然ピアノ調律師の板鳥に出会った外村。それまで意識したこともなかったピアノという楽器だったが、突然調律という仕事に魅了されてしまう。

調律師となった外村は、ひたすらに仕事と出会う人々に向き合っていく。

 

以下、少し内容に触れます。

 

 

読み終わって、映画が見たい、と思った。

思い浮かぶ映像がすごく美しくて、静かで繊細で、きっと私はこれが映像化したものが好きだと思った。

 

タイトルの『羊』と『鋼』はピアノを構成する部品に使われている素材。

森は、主人公である外村くんが、ピアノの音を聞いた時に浮かべたイメージだったり、彼の思う調律という仕事の果てしなさだったり、そういうものを表す時に出てくる単語、だと思う。

 

この作品は、本当にひたすらに、ただただ外村くんがピアノの音に、調律という仕事に向き合っていく作品。

 

 

彼は純粋に憧れて『調律師』という職業に就いたけれど、人によっては巡り巡ってこの仕事に就いた人もいる。

調律するときに「どんな音にするか」「どういう風にお客さんと接するか」などは人それぞれ違う。

依頼してくるお客さんたちの要望や、ピアノがある環境、ピアノを弾く状況も様々で、仕事を通して外村くんは様々なものに触れ、ひたすらに考える。

 

その怖いくらいの真っすぐさが、すごく綺麗。

他に見ないくらいの純度を持った主人公だなと、気が付いたら好感を持っていた。

 

 

作中、小説家・原民喜さんが述べられた理想の文体について言及するシーンがある。

 

”明るく静かに澄んで懐かしい文体、少しは甘えているようでありながら、きびしく深いものを湛えている文体、夢のように美しいが現実のようにたしかな文体”

 

外村くんの憧れの存在である板鳥さんは、言葉少ななのに、会話の中でいつも外村くんに大きな刺激を与えていく。

 

外村くんが板鳥さんに、調律をする時にどんな音を目指しているか、を問うシーンがある。

その時に板鳥さんは、この原民喜さんが綴った理想の文体についての文章を諳んじて聞かせる。

 

板鳥さんが、自分が作りたい音のイメージはまさにこれだと言うので、外村くんは、もう一度聞かせてくれるように頼む。

板鳥さんは、同じことをもう一度外村くんに聞かせるのだけど、その時に

 

”同じ文章を繰り返した”

 

みたいな表現の仕方がされていなかった。

まったく同じ原民喜さんの言葉がもう一度、板鳥さんのセリフとして、カギカッコ内に収められていた。

 

それだけ板鳥さんにとって大切な言葉で、たぶん作者の宮下奈都さんにとっても思い入れのある言葉なんだろうと思った。

 

けれど、

 

板鳥さんの音は、すでにこの理想の音のようだと外村くんは感じている。

宮下奈都さんの文章は、すでにこの理想の文体のようだと私は感じている。

 

それでも板鳥さんも宮下奈都さんも、この理想の文体にたどり着きたいと今もまだ向上心を絶やしていないんだろうと、

 

そんなことを考えて、あー、カッコいいなと感動してしまった。

 

すごく印象に残ったシーンだった。

 

 

 

 

もう一つ印象的だったのが、うまく調律ができないと悩む外村くんと、職場の先輩である北川さんの会話のシーン。

 

 

「どんなことでも一万時間かければ形になるらしいから。悩むなら一万時間かけて悩めばいいの」

 

 

一万時間。

 

約417日分。

 

 

人間、1日の3分の1は眠っている。

1日の3分の1は仕事の時間かもしれないけれど、常に極めたい作業だけをやっているかと聞かれれば、そういうわけにも行かない。

 

日々、本当に少しずつ少しずつ力をつけて皆生きている。

 

 

私は何故だかちょっと救われたような気持ちになった。

 

 

色々下手くそだなぁ、上達しないなぁと日々感じているから、一万時間っていう想像できない膨大な時間を示されて、

 

じゃあ仕方ないか! という楽観的な気持ちが生まれ、

 

でも知らないうちにきっと少しずつ上手になっていくんだ、と未来への希望みたいなものもチラと見えたりした。

 

 

とにかく、とても素敵な作品だった。

本屋大賞受賞作ではあったけれど、毎度のごとく、世間の盛り上がりにリアルタイムに乗っかることができない人間なので、今更読むことになってしまった。

 

でも読んでよかった。映画も見ます。

楽しみ。

 

皆さんもぜひ。

 

 

 

 

 

 

 あっ、ハッピーターンも、ぜひ!