推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

抜歯抜糸ナイトゲーム(痛い表現があります)

お疲れ様です。

 

とうとう親知らずを抜きました。

2本目の。

 

2本目のタイミングなんだから、それを話せばいいじゃんと思うのだけど、日記には記録の意味もあるだろう。

 

 

とりあえず、1本目の話をしようと思う。

 

 

 

私の口腔内には4本の親知らずがあって、

上の2本はしっかりと下に伸び、下の2本は真正面に向かって伸びきらず、歯茎に埋まった状態だった。

 

今の住まいに引っ越す前に、右上の1本をその場の勢いで抜いた。

 

 

その時に見ていただいた先生が、なんというか、力の良い具合に抜けた話し方をする方だった。

 

 

「ん-、まぁ、でもねぇ、これねぇ、いつかは抜かなきゃいけなくなるからねぇ、下の歯は手術しないといけないやつだけど、上の歯はいつでもできるけど、どうします?」

 

「うっ、あ、じゃあ、抜きます……!」

 

 

このやり取りだけだと、なんて私ってば潔いんだ! やるやん! と思うところですが、実は前にも同じ説明を先生から受けていたからこその決断だったりする。

 

 

「……いつか、ということは、まだ抜かなくてもいい、ということでしょうか」

 

 

という『ザ・尻込み』みたいな返事をした過去があり、ようやく腹が据わって抜く方向で返事が出来た、ということである。

 

 

 

上の歯は、本当にあっという間だった。

 

麻酔は2回。

 

歯を抜く時に痛くないように麻酔を歯茎に打つ、

……の前に、歯茎に麻酔を打つその時に痛くないように、まず歯茎に麻酔を塗る。

 

 

なんて優しいシステム。

 

 

 

歯茎にそっと触れられただけで、ほんの数秒のうちにその辺りがジンジンしてきて、その近くに居あわせた舌の横辺りも同じようにジンジンしてくる。

 

あ、これが麻酔が聞いてる感覚なのか、とハッキリわかる。

 

言葉にするのは難しい。

麻酔が効いてる部分の体積がひと回り広がったというか、つまり触られている感覚が遠いというか。

 

部分麻酔だからだとは思うけれど、麻酔が効いている周りは通常どおり営業をしているわけだから、何をされているか全く分からないうちに終わっていた、ということはない。

 

歯茎に針が刺さったな、とか、

てこの原理を使って奥歯が持ち上げられようとしているな、とか

歯と一緒に少しだけ歯茎の奥が引っ張られている感じがするな、とか

 

そういうのは分かるのに、痛みだけがない。

 

そして優しい歯医者さんでは、機械の音とかが怖い人の為に、優し気なBGMが流されたりするらしいのだが、私が行ったところではそういうのは一切なかったから、自分の口の中で行われている工事現場みたいな音がBGMのすべてだった。

 

ゴッ、ガッ、ブチブチブチ、みたいな。

 

 

しっかりと根が生えているものが、無理矢理引き抜かれようとしている

 

そういう音が、耳から聞こえてくる、というよりは、内側から鼓膜に直接語りかけています……みたいな感じで伝わってくる。

 

イメージとしては、大木が「はたらくくるま」とかの力で地面から無理矢理掘り起こされて引っこ抜かれていくような。

 

 

音が苦手な人は、BGMかけてくれる歯医者さんを探すか、

もしくは

「BGMかけてもらえませんか……?」

あるいは

「歌っててもらえませんか……?」

などと聞いてみると案外どうにかなるかもしれない。

 

 

たぶん、歯を抜く、という行為をしないと聞けない音がそこにはあって、私は非常に興味深かった。

 

 

 

 

いつも思う。

もしお医者さんがすごく悪い人達だったら、今私は簡単に命を奪われてしまうな、と。

 

お医者さんという職業に対する、というより、法律とか倫理観とかに対する日本の信頼みたいなものを、いつも感じる。

 

急所を晒している、という状況であるにも関わらず、全てを預けられる国で良かった、と思う。

 

 

 

抜いた後はぽっかり穴が開く。

そこに歯がありました、と分かるように。

 

何日か分の薬が渡される。

痛み止めも渡される。

 

「痛くなったら飲んでくださいね」

 

めちゃくちゃ怖い言葉だな、と思いながら、私は受け取った。

 

 

夜。

 

ずくずく、と脈打つのは感じるけれど、薬を飲まなきゃ、と思うほど傷むこともなく、結局私は薬を飲まずに済んだ。

 

後日、先生に状態を確認してもらうために、再度歯医者へ行く。

「大丈夫でしたか?」

と聞く先生に、たぶん余裕の笑みを浮かべながら

 

「薬を飲まなくても大丈夫でした、いやぁ、先生の腕のお陰ですね」

 

などと軽口をたたいていたら、真顔の先生が

 

 

「上の歯はそうでもないからね、下は基本痛いです」

 

 

と言って聞かせた。

なんで脅すの、と泣きそうになったが、恐らく本当の事なんだろうと思った。

 

上の歯だから、食事の時に空いた穴に物が詰まるということもない。

楽勝である。

 

この調子で4本全部さっさと終わらせてやるぜ!

 

と思っていたあの頃。

 

 

 

会社は倒産し、私はその場から引っ越し、

そして世界に新型コロナウイルス感染症がやってきた。

 

 

 

世界はどうなってしまうんだろう、と不安そうな顔を見せながら、私は恰好の言い訳を見つけてホッとしていた。

 

新しい歯医者を探さねばならぬ。

いや、ちょっと待て、その前に、今このタイミングで「不要不急ではない親知らずの抜歯」など行かない方がいいのではないか。

 

そうだ、その通りだ。

 

断じて、抜歯が怖いから後回しにしているわけではない。

 

いや、すごく怖い。

 

いやだ、痛みもないのに抜く意味が分からない。

 

出来るならこのまま平穏に、親知らずと共に暮らしていってもいいんだからね。

 

 

などと、もだもだ、もだもだ、もだもだし続け、1年。

とうとう時は満ちてしまった。

 

 

変わらず痛みはない。

 

 

が、たまに奥の歯が前の歯を圧迫してるような感覚がある。

そして、必ずと言っていいほど、食べた物が挟まる。

 

返せ、それは私の晩飯だぞ。

 

 

 

 

そうして私は新しい歯医者さんを探すべく、ネットの海へと船をこぎ出したのだった。

 

 

 

 

まさかの次回へ続く……。

 

(私もビックリ、親知らずの話で2回分使うとは)