感情移入しても無力
お疲れ様です。
以前までは明らかにハッピーエンドにしか向かわないだろう、事件が起きても解決するんだろう、というものばかりを選んでいたのですが、最近気が付くと、不穏な気配がするぜ……というあらすじのものに手を伸ばしたりしていることがあります。
好みが変わった、というよりも、飲み込める内容が増えた、という感じだと思うのですが、これはとてもありがたいことです。
楽しめることが増えている。
一方どこか知らないところで、以前楽しめていたものが楽しめなくなっているという可能性は大いにありますが。
元々、ハッピーエンドが好き。
特にミステリは事件が起きて、解決する、という分かりやすい終わりがあるので、好きなんだと今気が付いた。
物語の先がどう続いていくのかは読めないけれど、登場人物の目先の問題は解決したのだと、安心して本を閉じることが出来るんだな。
だがしかし。
ハッピーエンドが好きなくせに、登場人物が転機を迎え、絶望や無気力から脱することが出来てくると、とてつもない不安に駆られる。
どうか、このままで。
そのまま行け、進んでいけ。
そう願わずにはいられない。
先に見えた光を信じられないというか、高校野球の試合の後ろの方で、ここで一発逆転あったらどうしよう、とやけにビクビクしてしまうのと近いと思う。
そして私は残りのページの厚みを確認する。
このページ数なら流石にもう事件も起きないでしょ、って思いたい。
そんな安心材料を探しつつ、私の脳みそは空気を読まないので、童謡『シャボン玉』(野口雨情作詞・中山晋平作曲)を思い出したりする。
しゃぼんだま とんだ
やねまで とんだ
やねまで とんで
こわれて きえた
かぜ かぜ ふくな
しゃぼんだま とばそ
脳みその、とんだ裏切り行為。
物語の最初に苦しんでいた主人公の明るい気持ちや行動の描写を読むたびに、懇願する。
かぜ かぜ ふくな
壊れてくれるな
こんな力のない願いしか持てない。私にはどうすることもできない。なんなら願ったところで何の意味もない。
そもそもフィクション。
私が介入できる部分は皆無。
虹色の膜を張った歪ながら軽やかに上っていく球体が、ちょっとした拍子で壊れてしまう。
繊細な緊迫感、緊張感。
早く、早く読み終わって、結末をしっかり目に焼き付けて、安心したい。
どうか幸せな姿を見せてくれ。
透明人間は204号室の夢を見る(集英社文庫)
ISBNコード:9784087441093
高校生で小説新人賞を受賞し、それから6年間小説が書けないままの実緒。ある日、書店で自分の著書を手にする若い男を目撃し、思わず後をつける……。
すばる文学賞受賞作です。あらすじで不穏な何かを感じつつ手に取りました。小説が書けなくて、もう何か、どうにでもなってしまいそうな主人公ですが、あることをきっかけに、少しずつ気持ちが上向きになっていく。
途中は本当に、上に書いたように「かぜかぜふくな無双」って感じで、願い続けながらページをめくりました。
終わり方は読んで確認していただきたいのですが、とりあえず私は「たまんねぇな……」って呟きました。
繊細な緊迫感、緊張感を楽しんで読めるようになった事に気が付いて、嬉しかったです。
同じ奥田亜希子さんの『左目に映る星』も読んでみる予定です。