推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

心に1本のポッキンアイス

お疲れ様です。

 

私の家の冷蔵庫の冷凍室には1本のポッキンアイスが入っています。

チューペット」は商品名になるのか、「ポッキンアイス」こそ商品名になるのか、外の包装がない今、彼の名前をどう呼べばいいのか私には分からないのですが……。濃い紫色であることからグレープ味だということは推測できます。


ところで、このポッキン、私が買ったものではない。前のアパートから一緒に引っ越しをしてきたものなので、彼とはかれこれ2年の付き合いがある、かもしれない。

 

 

書店に勤めていた時、よくコミックの貸し借りをスタッフさんたちとしていた。貸し借りと言っても、私はもっぱら貸す方で、借りたものは多くはなかった。
コミック担当だったフリーターさんは、コミックよりもラノベを読む人で、私はその人によくコミックを貸した。

ある時、「気になっている」と言ってくださったので、鬼滅の刃も貸した。その時出ていた全巻を一気に紙袋に入れてお渡しした。

布教はスピード感を持って行う。その人の興味が薄れる前に迅速に。

 

お貸ししてすぐに「面白かった」と言ってくださった。アニメも見てくださって、あんなに丁寧に作られたアニメがあるだろうか、原作をさらに深堀しつつ、しかし崩すことなく、あんなに美しく、作画がヤバい、鬼側のエピソード泣ける、と熱く語り合った。


貸している最中に新刊が発売した。

瞬く間に売れてしまったとき、私はすぐに手に入れられなくて、「ああ、続刊をすぐに貸せない、無念……」などと落胆していた。私がいた店舗もすぐに在庫が切れてしまったので、どこに行けば見つかるのか……。

たまたま行ってみたかった大きい本屋に足を運んでみたけど、そこすらも売り切れだった。

(ちなみに愛知県豊橋市にある精文館書店の本店です。めちゃくちゃ大きいし、文具の売り場もめちゃくちゃ広くて色々あって楽しいです。大学の地下まである図書館を思い出しました。もし機会があればぜひ行ってみてください。)

 

数日後、コミック担当さんに声をかけられた。鬼滅の刃を持ってきたので返すと言う。紙袋を手渡しながら、尋ねられた。
「新刊買えました?」
「お察しの通り、まだ買えてなくて……不甲斐ないです」


「そうですか、これどうぞ」

 

差し出された紙袋は私が鬼滅の刃を入れてお渡ししたもので、しかしその1番上には最新刊が入っていた。あまりにスマートに渡された。

 

「マジっすか!!!!!!!」

 

バックヤードであることを考慮して声量は抑え気味にしたと思う。

 

「えっ、まっ、神〜……」

 

もはや敬語が出てこない。普段使っている敬語が出てこない。こんなにも敬いたい、いや、崇め奉りたい気持ちがあるのに。

 

「あとこれ、いつもコミック貸してもらって、ありがとうございます」

 

さらに差し出される紙袋。その方面に明るくない私でも包装紙の雰囲気で分かる、お高いやつ。

 

「マジっすか!!!!!!!!!!」

 

バックヤードであることを考慮して声量は抑え気味にしたと思う。いや、流石に2回目は無理だったかも。

 

「コミックは次が待ちきれなくて、ついつい買っちゃって、貰ってください」

 

「マっ…………!!!!!!!!」

 

もう声出ない。神。すごい。しかも待ちきれなかったから買ってしまったけど自分は手元に置いておくつもりがない、という状況説明。気遣い。これは気遣いです。私が遠慮しないようにという気遣いです。はぁぁぁ……五体投地

 

鬼滅の刃の新刊と、良いところのお菓子をぶら下げて帰る。コミック担当さんの優しさも溢れてる。この時の私がどれだけ幸せな気持ちだったか、想像に難くないでしょう。

家に帰ってから紙袋を覗いた。実は、箱のわりに結構重量があるように感じていた。
開けた。ゼリーだった。道理で重たいわけだ。キレイな色をしている。桃、みかん、マンゴー、メロンだって。

 

フゥー︎! しゃれおつ!

 

部屋が広くないので、頂いたものはすぐに片付けてしまう。立派な箱だったので崩しちゃうの勿体ないけど。

そして紙袋の底にはもう一つ。

 

 


ポッキンアイス

 

 


ポッキンアイスが入ってた

 

 


銘菓と、ポッキンアイス。

 

 


絶妙なバランス。

 

 

好き。たまらなく好き。
最高だな。

 

 


お店が無くなってしまってから、最初は店長としてスタッフの皆さんに色々と連絡を取っていたんだけど、とうとう未払い賃金などの問題も片付くと連絡を取る理由も薄くなってしまった。

 

皆さん元気だろうか。

 

気になるなら連絡すればいい。皆さん優しい人たちばかりで、たぶん面倒に思ったって返事を下さるでしょう。分かってるけどなかなか勇気が出せないでいる。

そんな臆病者の私とコミック担当さんの思い出、ポッキンアイス。
最後の一本を大事に大事に残しておいてしまったわけです。

 

 

 

暑くなってきて、うっかり食べた。

 

 

 

やっぱりアイスは美味しい
呆気なかった。申し訳ない。アイスが無くなる代わりに、ブログに書こうと思った次第です。あの優しさと、一緒に引っ越しをしてきたアイスがいたこと、忘れないでいたい。

(多分忘れるので、ブログに託します)

また今季オススメのアニメなど伺うメッセージを送ってみようかな。

 

 

傑作はまだ

著者:瀬尾まいこ 出版社:エムオン・エンタテインメント

ISBNコード:9784789736855

引きこもりの作家・加賀野の元へ、生まれてから一度も会ったことのない25歳の息子・智が突然訪ねてきた。戸惑う加賀野だが、「しばらく住ませて」と言う智に押し切られ、初対面の息子と同居生活を送ることに……。

どこか人や世界と距離をとっている人の元に、陽キャラの人が現れる。

距離を取っているだいたいのキャラクターは、別にそこまで特別なわけではなくて、なんなら陽キャラの人たちの方が距離感が少し変わっているんじゃないか、と思ってしまっている。陽キャラポジションの人たちは、促しはするものの絶対外に出ろ! 周りに目を向けろ! と無理強いはしてこない。何故か「ちょっとやってみようかな」とか自発的に思わせちゃう。

陰キャラを引き上げる、引き込む、引き寄せる力が凄い。

私がたぶん陰寄りだから、一緒に明るい素敵な世界を見せてもらっているような気持ちになるから、瀬尾まいこさん好きなのかもしれないな、とかめちゃくちゃ暗い事を考えてしまったりする。

そんな上手いこと人の行動や気持ちが変わるものか、と現実的な私が思うこともあるんだけど、フィクションだから、楽しくて、優しい。

フィクションくらい優しい物語があったっていいじゃないかと思う。

 

 

しかしありがたいことに、私にはポッキンアイスがあるから。

この世にはたくさんの優しい人や出来事があるのを知っているから、安心してフィクションを「そんなことあるわけない」と一蹴することなく、受け入れられる。

 

感謝する毎日であります。

いつも読んでくださっている皆様も、本当にありがとうございます。

 

 

よし、今度ファミリアを買いに行くぞー!!

 

 

それでは!!!