本屋の話1
お疲れ様です。
もうすぐ6月です。
毎日暑いですね。
私が勤めていた本屋が倒産したのは、気が付けばもう随分と前のことです。気持ち的にはつい先日のようですが、ふと、結構時間が経ったなあとあの頃を思い出してみることにしました。
私はその日、ちょうどお休みの日で、明日の仕事の為にお風呂もご飯も早く済ませようと動いていました。今思い返すと、なんと真面目な姿でしょう。涙が出そうです。
ご飯を食べていると店から電話がかかってきて、何か事件かな、と一呼吸おいてから電話に出ました。クレームだろうか、荷物の遅れだろうか、なんて考えて。
その時の私は恐れ多くも店長というポジションだった。副店長さんはすごく落ち着いた声の人で、聞こえてきた声も静かでゆっくりとしたいつもの口調だった。
「もしもし、お休みの日にすいません。明日からお店が無くなるそうです」
あまりにいつも通りのテンションで、サラッとそんなことを言われて、私は思わず
「あ、そうですか」
と返した。人間の脳みそがどうなっているのか私には分からないのだけれど、すごい勢いで頭が働いて、気が付いた時には「私は何をすべきですか」と聞いていた。
店長と言っても、副店長の方がキャリアの長い人で、私より経験もあって色々ご存じで、ずっとずっと頼りがいのある人だった。とはいえ副店長も倒産する場に立ち会ったことはなく、本社の人と確認をしながら状況などを教えてくれる、という感じだった。
あれこれ確認をして分かったのは、もう明日にはお店に入ることすらできなくなる、ということ。私たちのお店は、もう会社の持ち物ではなくなるので、自由に出入りすることすらできない場所になってしまうという。
スタッフの私物もあるので、とりあえず私が私物を引き取り預かることにした。
お風呂も入って、ご飯も食べて、寝間着だったけど着替えて。
軽く化粧もして。
急いで出かけていく先は、明日にはもう無くなる場所で。
店長という使命感もあって、今日の夜の間に全て片付けなくてはいけない、という時間制限も手伝って、全然悲しい気持ちは湧かなかった。
とにかく、今まで一緒に働いてきたスタッフさんたちが出来るだけ心を痛めないように、失くしてしまうものが最小限で済むように。理不尽に感じることが少しでも少なくなるように。
次の日に出勤する予定だった人たちには電話できたけど、そのほかの人たちにすぐに電話出来る時間はなくて、後日私が順番に電話をすることにした。
ごめんって思った。皆さんホントにいい人たちで、楽しそうに毎日働きに来てくれていたから、すぐに伝えられないことも、伝えられる内容が嬉しくない驚きになることも申し訳なくて。
片付けはじめたら、あっという間に終わった。ショッピングモールの中にある店舗だったので、時間をかけるわけにもいかなくて、管財人さんの立ち合いがあればまた一回はお店の中に入れる、と伺って、とりあえず終わったものとしてお店を出た。
不安だらけだった。お客さんに連絡できてない。常連さんの顔が思い浮かぶ。お店が閉まっていたらビックリするだろう。お取り寄せ最中の商品は、取り置きの商品は、定期購読のお客さんに誰がどうやって連絡してくれるんだろう。
聞いたらそれも弁護士さんとか、そういった人たちがやってくれるらしい。そう聞いて安心しつつ、私たちが直接お客さんに説明する機会は絶対に無いのだと知って、あまりの無責任さに呆然とした。
ただただ、ウチに来てくれていたお客さんに対して誠実でいられないことが申し訳なかった。
本当は、そろそろウチもヤバいんじゃないか、なんて、冗談半分、いや、冗談は5分の1もないくらいのテンションで話したりしていた。
だから「お店がなくなります」と言われた時も、すぐに思い至った。
そうか、無くなるのか、とうとう無くなるのか、と。
けれど。
こんな一夜で片付けなくてはいけないことだと考えたことはなかった。
私が電話で知らされてから作業終了まで5時間もかからなかった。
あっという間に私たちのお店は、他の人のものになった。
慌ただしいその日から、しばらく大きな悲しみを感じなかった。
ずっと、どちらかというと、お客さんに誠実でいられなかった悔しい気持ちと、何かに対する怒りとが大きかった気がする。今も悔しい。ずっと悔しい。
でも、よくよく考えずとも、そりゃ悲しい案件でしょう、と今の私は思う。
自分のこれからについて考えるためにも、必要な作業だと思って、もう少し何回かに分けて、読む人は全然楽しくない話を書こうと思います。
カテゴリーは『本屋の話』で。全然本屋の話っていうか、私事ですけれども。
お付き合いいただければ幸いです。
ISBNコード:9784098603954
不眠で悩む男子高校生・ガンタは同じ悩みを抱えるイサキと出合い、放課後に学校の今は物置になっている天文台で、つかのまの眠りと、秘密を共有するという不思議な関係が始まる……
インソムニアって不眠症って意味なんですね。私は不眠症ではありませんが、よく変な夢を見ます。昨日も気持ち悪い夢を見てしまったので眠るのが怖い(笑)
秘密の共有という青春っぽさは、不眠症という苦しいお揃いがあって生まれています。彼らの距離が縮んでいくのを見守っていたい。
オジロマコトさん、前作もおすすめです。
ISBNコード:9784091877703
猫がめちゃくちゃいっぱい出てきて、可愛い。のですが、犬も見てほしい。柴犬の表情豊かな感じが最高にいいので、よろしくお願いいたします。
寝るぞ!
変な夢見ませんように。
全国の本屋さんを応援しつつ……。
おやすみなさいませ!