推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

とりあえず背の高さに憧れても、もう背は伸びないわけだし。

お疲れ様です。

 

随分と前の話にはなりますが、母の運転する車に乗ってお出かけ中、大通りの道路で倒れているお婆さんに遭遇しました。

 

上体を起き上がらせているけれど、そこから動けないようで、近くには自転車が転がっていて、どうやら転倒したらしい。

母が気が付いてブレーキをかける気配がしたので、私も助手席から降りる準備をすべく、シートベルトを外した。

お婆さんの前に車を停めて、二人で降りて駆け寄る。

 

「大丈夫ですか?!」

「どうしたんですか?!」

お婆さんは笑いながら「ううん、あのね、向こうのお店に行きたかったんだけどね、転んじゃってね」と道路を渡った先の店を指さす。

 

お婆さん笑っとるけど、本当に結構な大きい通りで、道路の端の方で転んだから良かったものの、もう少し真ん中の方だったらどうなっていたことかと思う。

「そっかそっか」とか「立てる?」とか「びっくりしたね」とか話しかけながら、でも危ないから端っこ行こうか、と何とか移動を試みる。

足を擦りむいていて出血は少なそうに見えたけど、痛くて立てないと言っていたので、どこか打ったところが良くなかったのかもしれない。

私も母も力には自信があったのだけれど、力が入らない人(協力的に動けない状態の人)を動かす技術がなくて、なかなかお婆さんを歩道に連れていくことができない。

 

介護の技術って凄いと痛感……。

 

近くを車がどんどん通り過ぎていくし、危ないし、自転車はとりあえずどけることが出来たけどどうしよう、と思っていたら、車が私たちを通り過ぎたところで1台止まって、おじさんが降りてきた。そして一言。

 

「なに、事故?」

 

全力で否定する母と私。あっぶね、在りもしない罪を背負うところだった。

しかし確かに近くに車が停まっていて、転がった自転車と動けないお婆さんのセットを見たら、疑うのは分かる。

おじさんはすぐに状況を理解して、力を貸してくれた。運よく腰かけられる高さのブロック塀(?)があったので、お婆さんをそこまで移動させたら、それじゃ、とすぐにいなくなった。

 

危機は脱したけど、でもここからどうしよう、と母と考える。車に乗せて病院に連れていってもいいけど、自転車が乗らない。自転車の側に私を置いて病院に行くとしても、どれくらい時間がかかるか分からないからそれも難しい。

お婆さんは「もう大丈夫、ありがとね」とか言うけど、動けない人をそのまま置いていけるわけない。動けるのか聞くと、動けないと言う。じゃあダメじゃん。

 

「あれ! ○○さん!」

 

自転車で通りかかったおばさんが、突然お婆さんを見て足を止める。なんとご近所の知り合いの方だという。

 

ちょっと……メシアじゃん……

 

さっきもおじさんが颯爽と現れて助けてくれたけど、おばさん登場までもそこまで時間はかからなかった。すごい。ありがたかった。お二人とも、漫画のヒーローみたいなタイミング。

お婆さんの家をご存じだということで、「ちょっと呼んでくるわね!」と自転車のおばさんは家の人を呼びに行ってくれた。明るい人で、その雰囲気も助かる。「足、それ歩けないんじゃないの~?」とか不安になりそうなこともめちゃくちゃ口に出してたけど、それだけお婆さんとも面識があるんだなと分かって安心できたのも良かった。

そのままおばさんは家に帰ったらしい。

 

しばらくお婆さんと道端で食っちゃべってたら、お婆さんのお家の人が迎えに来てくれた。すごい沢山の感謝の言葉と、お礼を、って言われたけど、丁重にお断りしてお別れした。そのお婆さんが、その後で病院に行ったか、足の怪我はどれだけのものだったのか、知るすべはない。

 

とにかく「名乗るほどの者ではありません」という言葉を頑張って飲み込んだ自分を褒めたい。(めちゃくちゃウズウズしたけど)

 

車に戻って、やっぱり母はすごいな、と話した。

咄嗟に車を停められる行動力と、しかも咄嗟なのに、お婆さんの手前に車を停めたこと。車のお陰で後続車はちゃんと避けていってくれるし、あの停車位置だけで危険な事の半分以上が防げていたと思う。

そうしたら母は言った。

 

「何言ってんの、あんたがシートベルト外そうとしたのが先だったよ」

 

覚えがない。私は母の動きでシートベルトに手を伸ばしたはずで……まあ別にどっちが先でもいいんだけど。お婆さんどうにかお家に帰れたし。

 

今後に繋がる大切なことは、自分が一人で運転していたら停車して降りて声をかけられたか、ということだ。

その行動がとれるとは思えない。運転技術に不安があるというのもあるけど、電車では誰かの為に立ち上がることが出来なかったらどうしよう、と座るのが怖かったりする。

そうしたら母はまた言う。

 

「あんたは動くよ」

 

とんでもない過大評価だと思った。

いやいや、どうだろうね、そうかなあ、難しいと思うなあ。

自信は今もない。でも「できる」と言い切ってくれたことがすごく嬉しかった。母の目には私がそう映っているらしい。

 

誰かからの評価って、たまに重荷になったりする。どうしてもできないことを「出来るよ」とか言われても困る。いや、出来ないよ、無理だよ、変に期待しないでよ。

でも「自分がこうありたい」「出来たらいい」と思っていることに対する期待は、背中を押されるというか、その期待に応えたいなあ、と前向きな気持ちになれることがあるんだと知った。

 

押しつけじゃなくて、自分の願望と合致する期待は、力になるらしい。

母のこの躊躇のない力強い評価は、事あるごとに思い出されるんじゃないだろうか。その度に「ちゃんと動けなかったな」とか「意外と動けたな」とか、少しずつ理想の姿に、期待に恥じない自分に向かっていくんだろうと想像して、ちょっとだけ未来の自分に期待した。

 

 

理想の姿って本にも見ることがある。

雑貨店とある(芳文社コミックス)

著者:上村五十鈴 出版社:芳文社

ISBNコード:9784832237254

とある町にある1軒のお店。のんびり屋でお人よしの店長としっかり者男子高校生のアルバイトがいる雑貨店(カフェあり)。

人が涙を零す時の描き方が好きでした。自分の中に生まれる嫌な気持ちとか弱い気持ちが絶妙な強さで描かれていて、ありがたい。これ以上鬼気迫る感じで表現されたら、感情移入し過ぎてしまって落ち着いて読めなくなりそう、そういうリアルな心の揺らぎを優しくして見せてくれる。作者さんも絶対優しいのが好きな人だ(深く頷きながら)。

このキャラクターみたいな人間になりたいな、とか、思うことがよくある。この店長みたいな雰囲気の人になりたいなと思うけど、まだ1巻だし、もしかしたら今後店長の心について深堀されるかもしれないし、楽しみな作品です。

近くにこの雑貨屋さんあったら私も通う。通うわ。

 

つむじ風食堂の夜ちくま文庫

著者:吉田篤弘 出版社:筑摩書房

ISBNコード:9784480421746

こちらは、読んだときに「この本の雰囲気みたいな大人になりたいなあ」と思った1冊です。優しくて、柔らかくて、経験が豊富で、温かい。装丁や、段落の空き、本まるごと、雰囲気が好きです。ぜひ手に取ってみてほしいです。

 

 

日常のあらゆるところに「ああいう風になりたい」が点在していて、目移りしてしまいそうですけど、まずはやれることからやっていきたいです。

いい歳してまだ「やれることから」とか言ってますけど、まあ、ほら、速度は人それぞれだから。これからも自分を甘やかしていきたい。