推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

行った先に何があるのか、師匠はそこまでは教えてくれない。

お疲れ様です。

 

最近、前よりも車の運転が慎重になった気がします。

良い事のように聞こえますが、丁寧すぎると逆に危なかったり、迷惑になったりするので、ほどほどにしたいところです。

 

慎重になったきっかけは思い当たらないのですが、その代わり(?)自動車学校のときにお世話になった教官のことを思い出しました。

自動車の免許は、仮免試験で一度落ちた、という苦い思い出があります。

頭でっかちなので筆記の方はまぁ何とかクリアし、実技の方で落ちたのであります。友人と合宿という形で泊まり込みで行っていたので、あ、やばい、置いてかれる、みんな先に合格して帰っちゃう、とそれはもう焦ったものです。

自動車学校内の道で若干側道に乗り上げて、慌ててバックしたときに後ろを確認しなかったから、ということで、そりゃそんな危ねえやつに本番走らせられんよな、と今になって更に強く思う。

(タイミングに助けられ、無事に友人と共に帰ることができました)

 

仮免でそんな失敗をしてしまったものですから、その後の車道での練習はそれはもうビビりまくりでした。

何もかもが怖い。車めちゃくちゃ走ってる。ビュンビュン目の前通り過ぎていく。

タイミングを見計らって、車と車の間に入る??? 何を、どういうことや、すごいな、みんな、なんで、すごいな???? と怯えと尊敬を常に繰り返していました。

そんな私の隣によく座ってくださった教官の口癖は

 

「行っちゃえ、行っちゃえ~!」

 

でした。

ふふ、いや、行けんよな? その感じで飛び出せんよな?

今思い出すとめちゃくちゃ面白いな。

私が慎重に慎重を重ねてしまっていたからこその言葉だったかもしれませんが、それでも私はアクセルをそんな感じに踏むことは出来ないままでした。

 

私の運転のお師さん……。

 

人とは師の姿を目指して生きていくものだと思っていた。

どうやらそればかりではないらしい。全然「行っちゃえ、行っちゃえ~」の感じになっていかない。逆らい続けている。それが良いことか、悪いことか分からないけど、未だに師匠の教えはこうして心に残っている。

 

車の運転は怯え続けていますが、この言葉は運転に限ったことではないよな、と思う。

 

いつか何かに悩んで「どうしようかな」「やろうかな」「やらないでおこうかな」と慎重になっているとき、都合よく師匠の言葉を、あの調子を思い出していきたい。

皆さんもぜひ、会ったこともないでしょうが私の運転の師匠を心の中に召還してください。きっと軽い調子で「行っちゃえ、行っちゃえ~」と背中を押してくれるでしょう。

 

 

この軽い口調、あの作品を思い出します。

イン・ザ・プール(文春文庫)

著者:奥田英朗 出版社:文芸春秋

ISBNコード:9784167711016

神経科医と患者の話なのですが、ホントに医者か……? とどの患者も揃って困る、というか戸惑う、というか怯える、というか、患者だけでなく読者も最初は狼狽えてしまうキャラクターの強さ。

しかし、伊良部せんせいの「いらっしゃーい」の甲高い声が患者を出迎えることに慣れてきます。パンチが強い分、中毒性があります。

始まったな……と戦前の武士のような顔が出来るようになってきます。

今回の犠牲者はこいつか……と悪い顔が出来るようになってきます。

患者さんと一緒に読者も振り回す伊良部せんせいの魅力、ぜひ感じていただきたい。

 

 

慎重派の人間も、たまには人の勢いに乗せられて行動するべきなのかもしれないな、と師匠の言葉を思い出して考えます。さすが師匠だ、今になって心に語りかけてくれる。

 

慎重な自分に逆らえる強さを持ちたい。

俺、強くなるよ、師匠。

そう、海賊王に、海賊王とかに、なるよ、俺は、海賊王とかに……。