推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

人が多いところは何かが起きて楽しい。

お疲れ様です、こんばんは。

先日、あまりにも鮮やかな流れを見たので、日記にしておこうと思います。ついでのように家族自慢も放り込む。温かい目で読んでもらえたら嬉しいです(笑)

 

転職を機に引っ越しをしたら、祖父母の家が近くなりました。

孫の私が顔を見せるとすごく喜んでくれて、以前よりも行き来しやすくなったことがこちらとしても本当に嬉しく思います。

会いに行くだけで喜んでもらえるなら、出来るだけ顔を見せに行きたい、とはいえ、あんまり行くと無理をさせてしまうことにもなるので、なかなかタイミングが取れずにいる。

 

先日、明日食料を買いに行こう、あ、そうだ祖母を誘おう、と思い立った。

 

祖父母はもう運転免許証を返納しているので、移動の足がない。移動手段は自転車か、歩きだけ。タクシーを呼ぶという方法もあるけれど、誰かを呼ばないと大きな買い物が出来ない、というのはやっぱり不便は不便だと思う。

電話で「最近お買い物に出られてる? 明日よかったら一緒に買い物しない?」と聞いてみると、「明日はちょうどアンタのお母さんも来てくれることになってるよ」と弾んだ声が返ってきた。

 

すごい偶然。

 

母が買い物に連れ出してくれるなら引き下がることも考えたけど、せっかくだし一緒に出掛けることにした。母と会うのも結構久しぶりだったし。

 

祖父に買ってきてほしいものはあるかを確認して、メモを作ってから3人で家を出る。大雨。運転は母。母は運転が上手い。駐車場を見つけるのも上手い。自慢の母。

「濡れても仕方ないと思って、絶対に走らないで」

と母に言われたにも関わらず、車から降りてすぐ駆け出して転びそうになる祖母。

「なんでやねんw」と思わずつっこむ私。幸い転ぶこともなく、軒下にたどり着いて、「ああ、びっくりした」と笑う祖母。お茶目というか、お転婆というか、昔は運動神経が良かったという話も聞いているので、感覚が追いついていないのか、危ないけどとにかく明るくて、笑顔が多くて素敵な人。自慢の祖母。

 

久しぶりの買い物だったのは3人ともだったらしく、大雨の勢いにも釣られていたかもしれないけれど、スーパーに入ってすぐ、もう何だか楽しかった。

結果、2カゴいっぱいに買い物をして、周りの人に二度見されまくる。

 

事が起こったのはお肉のコーナーだった。

 

何がいいかなあと3人で売り場を物色していると、母が「あ、これ凄く美味しかった」と指を差した。

豚肉。商品名は忘れてしまった。とにかく豚肉で、よく見る名前ではない商品名だったことだけ覚えている。豚バラ、とかそういうものじゃなかった。

 

「歯ごたえが普通よりあって、美味しかった」と母が言う。

「あ、私も食べたの、美味しかった」と祖母が言う。

「へえ、そうなんや」私が頷く。

「○○(私の弟の名前)も美味しいって言ってさ」と母。

「なんかねぇ、美味しかったよねえ」と祖母。

 

私は楽しそうに語る二人の言葉にひたすら頷いていた。

近くに立つご高齢の女性に気が付いて、母が「あ、すいません」と言いながら場所を空ける。普通に買うよりもその場で話をしてしまっていたので、別の方の邪魔になっていると思ったのだ。

ところがその女性は、祖母に対して声をかけた。

 

「あの、何が美味しいの?」

 

私たちは一瞬驚いたけど、今のテンションの高い会話を聞かれていてのことだと気が付いた。祖母も母も私も知らない人と話すことに抵抗がない。

祖母はすぐに「この豚肉の話ですよ」と返事をした。母も私も合わせて頷く。

 

「そんなに美味しいの?」と女性が言う。

「他のより美味しかったんですよ」と母が言う。

「うんうん」と相槌を打つ祖母。

「何をお作りになったの?」と女性。

「ウチは唐揚げ、だったかなあ」と母。

「そうなのね、ありがとう」と女性。

 

やり取りの終わりを感じて、その場を離れる私たち3人。

振り返ると、女性はオススメした豚肉を持ち上げて、少し考えてそのまま買い物カゴにそっと入れていた。

「お店からお金もらわないかんね」と母は言う。見事な売り上げ貢献である。母の冗談に私も「そうやねぇ」と笑う。

 

もしかしたら、祖母と母の会話がなくとも女性はあの豚肉を買っていたかもしれない。あの豚肉を買わなくても、他のもっと高いお肉を買っていたかもしれない。

でも目の前で行われたこの一連のやり取りは、間違いなく「推しを推す」「推しを伝えて知ってもらう」という私がやりたいことそのものだった。

 

なんて鮮やか。

 

ネットなんかに流さなくても、オススメは人の会話の中で伝わる。

しかも知らない人同士でも。その場で、すぐ。

しみじみ思う。

 

会話っていいなあ。

 

自分の強い気持ちが相手に伝わることや、その気持ちを相手がその通りに受け取ってくれることはすごく難しいのを知っている。祖母と母とその女性とのやり取りは、私に「すごい事が起きている」と感じさせた。

貴重な場面に出くわした。

やっぱり人が多くいる場所に足を運ぶのは楽しい……。

 

 

 

人が……人が多い……オススメ……

ドミノ(角川文庫)

著者:恩田陸 出版社:KADOKAWA

9784043710010

一億円の契約書を待つ、締切直前のオフィス。オーディション中、下剤を盛られた子役の少女。推理力を競い合う大学生。別れを画策する青年実業家。待ち合わせ場所に行き着けない老人。老人の句会仲間の警察OBたち。真夏の東京駅、二七人と一匹の登場人物は物語の結末に向けて動き出す。

多すぎないか……? と思わせるこの登場人物たちが、綺麗に一気にグワッと動き出して物語の終局に向かって集まっていくスピード感にゾクゾクします。

 

えっ、待って、次の出とるやん、うそ、知らんかった、嬉し、

えっ、やったー!!!

 

 

突然の喜びに私自身がついていけない。