推しを推す、そして万物に感謝する。

元書店員。日常のオススメやアレコレの話を。

だとしても私はジェットコースターには乗らない

本屋に限ったことではないけれど、沢山の人と接する仕事をしていると「色んな人がいるなあ」と思えて楽しい。接客業は面倒に思うことも多々あるけれど、私は結構好きだ。

 

登山に行くのだろうか、と思わせるほど大きなカバンをいつも背負って来店するお兄さん。

 

「こんなに本の話ができて幸せだ!」と私を話し相手にロックオンする孤独な文学少年。

 

クレジット支払いのサインが全く読めないおじさん。(サインとして成立しとるんか?)

 

お気に入りのスタッフとひたすら喋るだけ喋って、満足げに帰っていくおじさん。

 

立ち読みをし続け、時間が来ると読んでいたページに付属の栞を挟んで、同タイトルが積まれている1番下にそっと本を入れて帰っていくおじさん。(また続きからここで立ち読みするぞ、という情熱)

 

私によく声をかけてくださる方もいらっしゃった。映画のチケットを買ったあとに上映時間まで本屋で時間を潰す方で、でも商品も沢山買ってくださるご高齢の男性だった。映画も好きだけれど本を読むことも多かったらしいこの方をAさんと呼ぶことにする。

「今日はこれを見に来たんだ」

いつも最初に映画のチラシを見せてくださった。私はあまり映画を見る習慣がなかったので、へぇそうなんですか、なんて相槌を打った。

大体10~30分、体感にして1時間くらいはお話が止まらない。基本的に私は聞くに徹していて、早く映画の時間になれ~(笑)などと思っていたけれど、たまに本の話をしてくださるので、私もたまに楽しくて、だからAさんの話を聞くのはそこまで嫌ではなかった。

しかし悲しいかな、Aさんと本の趣味が違うらしい。オススメの本を教えてもらっても読もうと思える本がなかなか無い。間違っても他人様の作品を食わず嫌いしているわけではもちろんなくて、自分が元々読みたい本の方が優先順位が高くて、それを買った後に残ったお小遣いで何を選ぶかは人生において重要な事柄だから……申し訳ないAさん、でも好きなものがある人なら分かるよね……?

 

決してAさんのプレゼンが心に響かなかったとかそういうわけでは。

そういうわけでは。

 

そんな中、一つだけ勧められて読んだものがあった。

OUT 上・下巻(講談社文庫)

著者:桐野夏生 出版社:講談社

上:9784062734479 下:9784062734486

 

ジェットコースターが苦手なのだけれど、理由は単純に「怖いから」。「一歩間違えたら死ぬから」。

怖がりながらも面白いと思える、という感覚が私には分からなかった。怖いものは怖いやん。臨死体験やん。

 

でも「怖い」と「面白い」は私の中でも共存できるもの、というのを教えてくれたのは本だった。

 

OUTもそれを教えてくれた本の1冊。怖いけど、面白い。うわぁ、うわぁ、と文章を読んで場面を想像して、うわぁ、うわぁ、と目を細めつつ、視線は逸らせず。怖いなら止めればいいのに、と思いながらも最後まで一気に読んでしまった。途中で止めた方が怖いことも分かっていたからかもしれない。

 

最初にその感覚を教えてくれたのは乙一さんだった。

夏と花火と私の死体(集英社文庫

著者:乙一 出版社:集英社

ISBNコード:9784087471984

 

その次は道尾秀介さん。

向日葵の咲かない夏(新潮文庫

著者:道尾秀介 出版社:新潮社

ISBNコード:9784101355511

 

私は怖い話が好きなわけではないので、面白そうなミステリーだなあ、と思ってたまたま買って読んだだけ。怖い話の本を探してる、と言われても、他に読了していてオススメできるものはない。

 

私は読んでいませんけどよく売れましたよ、と正直に伝えるなら

残穢新潮文庫

著者:小野不由美 出版社:新潮社

ISBNコード:9784101240299

 

ちなみに読んだ結果、何かが起きても私は責任をとれない。恐ろしく怖いらしい、としか伝えられない。私には読む勇気がない。

 

……とにかく。

読み始めて「騙されたー!!!!」と叫んで、緊張と恐怖に心臓をバクバクさせながらも手は止まらなくて、気が付いたら人にオススメしてしまう。そういう魅力のある本に出会えたことに感謝している。

 

Aさんのおかげ。ありがとうございます。

「いい意味で裏切られたもの」、ぜひ皆さんの推しも教えていただきたいです。